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風考計
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若宮啓文
論説主幹
筆者からひとこと
 
アメリカ “with you”と言わせて

ワシントンポストに掲載された前面広告
  

 先ごろ面白い話を聞いた。

 85年11月。世界の視線を集める中、レーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ書記長がジュネーブで初めて会ったときのことだ。レーガン氏は「これから長いつきあいになるから、アメリカをよく知っておいてもらいたい」と切り出して、こう続けた。

 「アメリカでは、ホワイトハウスの前でいくら私の悪口を言い、『レーガン辞めろ』と気勢を上げても、彼は捕まることもなく安全に家に帰れる。そういう国なんだ」

 するとゴルバチョフ氏が「それなら我が国も同じですよ」と言い返した。「赤の広場で、いくら『レーガン辞めろ』と叫んでも、安全に家に帰れますからね」。ふたりは大笑いして、一気にうち解けたという。

 ゴルバチョフ氏のユーモア感覚をうかがわせる話だが、詰まるところ同氏は「アメリカの自由」を称賛したということだろう。ソ連の崩壊はこれから6年後のことだった。

 なるほど、様々な問題を抱えるアメリカでも、我々が感心させられることは少なくない。

 マイケル・ムーア監督は、映画『華氏911』であれほどブッシュ大統領をこき下ろしても、平然としていられる。果たして日本では、自国の首相をあのように指弾する映画をつくり、外国に配給するようなことができるだろうか。国辱者は許さないと、激しい圧力がかかるのではないか。

 今春、アブグレイブ刑務所で明らかになった米兵による捕虜虐待事件は、世界を驚かせた。イラク解放を唱える国のやることかと言われたが、それを告発したのも米国メディアだった。

◇     ◇     ◇     ◇

 衝撃的だった01年の「9・11」のすぐ後、ワシントン周辺に住む日本人約500人が知恵と寄付を出し合い、ワシントン・ポスト紙に全面広告を出したのを思い出す。

 「America,we are with you(アメリカよ、私たちは共にいる)」というタイトルで、「民主主義、自由、人間の尊厳……」といった価値をたたえて連帯を示した文面だ。参加者全員の名前も小さな文字で並んでいた=写真。

 当時、仕事を離れてアメリカの研究所に滞在中だった私も、これに加わった一人だ。自由社会の兄貴分がこんな風に屈辱の挑戦を受けた事実を目の当たりにし、私もいたたまれなかった。この広告は多くの日本人の率直な気持ちだったろうし、世界の空気にもかなっていたと思う。

 さて、いま私たちはあの時のように「We are with you」と声をそろえて言えるだろうか。

 小泉首相のように「もちろん」という人もいるだろう。だが、多くの同盟国の反対を押し切ってイラク戦争を始め、いまだ迷路の出口を見つけられない「ブッシュのアメリカ」は、多くの人の心から離れてしまった。

 アメリカとは一緒にいたい。それなのにアメリカが一人でどんどん走って行ってしまった。これでは「with you」と、言おうにも言えないではないか。そんな切なさを感じている人も多かろう。

◇     ◇     ◇     ◇

 ゴールが目前に迫った大統領選で問われているのは、まさにそのことだ。民主党のケリー候補は「戦争の誤り」を突き、同盟国を仲間に引き戻せるような大統領を、と訴えている。

 強気のブッシュ大統領はテレビ討論でこう反論した。「誤った戦争だなどと言われて、加勢しようという国があるか」。あくまで正義の戦いだったと言い続けなければ、世界の応援は望めないというわけだ。世界の心理を読み違えている。

 そういえば、イラク戦争が混乱の様相を深めてきたころ、日本には「消火が先決」という声があった。「目の前で家が燃えているのに、犯人捜しをしている場合ではない。まず、みんなで消火に協力するのが当然だ」と。

 しかし、である。「早まるな、危ないぞ」と仲間にさんざん止められたのに「大丈夫だ」と振り切って火を付けたのは誰だったのか。危険な火消しを頼むなら「すまない。ちょっとやり損じてしまった」と、頭をぺこっと下げるぐらいのことはしたらどうか。世界の空気はそんなところだろう。

 だが、ブッシュ氏は頭を下げない。国家や大統領の威信。米軍の士気。そして何より自分の再選が気になるのだろう。人間ブッシュ氏は内心つらいのかもしれないが、始めたら正当化し続けなければならないところに、戦争の怖さがある。

 ふと思い出したのだが、アメリカからは正直の美徳をたたえるこんな話も教わった。

 父親が大切にしていた桜の木を切ってしまった少年が、潔く父親にうち明けて謝った。それで逆に褒められたという、初代大統領ジョージ・ワシントンの余りにも有名な逸話である。

 さて、第43代大統領のジョージの方はどうなるのだろう。世界は息をこらしてそれを見ている。 (04/10/31)








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