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「ニュースDrag」 October  11, 2004

日中のずれを考える

高成田の顔写真 高成田 享
タカナリタ・トオル

経済部記者、ワシントン特派員、アメリカ総局長などを経て、論説委員。
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先日、とても刺激的なシンポジウムを傍聴した。「日中の文化関係を考える−相互認識のずれを中心に−」と題して、法政大学国際日本学研究センターが主催したもの。日本と中国の研究者がそれぞれ感じている相互認識のずれを話しながら、相互理解の道をさぐろうという企画だ。

シンポジウムは以前から計画されていたのだと思うが、中国で開かれたサッカーのアジアカップで、日本への激しいブーイングが噴出したこともあり、あらためて日中の相互認識のずれが注目されることになった。

中国側の多くの発言者は、首相の靖国神社参拝に象徴される日本の「歴史認識」に中国国民がこだわる理由をそれぞれに説明、それがサッカー事件の土壌になっていることを語った。それだけの解説であれば、重要だがいつもの話という気持ちになるのだが、たとえば楊棟梁教授(南開大学日本研究院)は、「中国では、善人善事は代々にわたってほめたたえられ、悪人悪事はいつまでも悪名が残ってののしられるのに対して、日本では、死んだ人を追及する必要はないという考えを持つ人は少なくない」と分析。日本の例として、明治政府に反乱を起こした西郷隆盛の銅像が上野公園に立っていることをあげていた。

東京裁判で死刑に処せられたA級戦犯が靖国神社に合祀されていることについて、勝者が敗者を裁く東京裁判が不当だとして、合祀は当然だという人たちもいる一方で、「日本の神道では、死んだら神になるのだから、戦犯も一般の戦死者も区別できない」という神社側の説明に納得している人も多いのではないか。悪人は死んでも悪人という中国人の考え方からみれば、死ねば神という日本の考え方は理解できないというわけで、だとすれば、歴史認識の違いだけでなく、両国民の死生観や価値観の違いが相互の歩み寄りを妨げている面もある、ということになる。

文化的な理解を深めることが不必要な摩擦を避けることにつながるわけで、日本側の青木保教授(政策研究大学院)は、「文化力」の重要性を指摘、「大アジア主義」を掲げた孫文や、「東洋の理想」を説いた岡倉天心の再評価を提案していた。川村湊教授(法政大学)は、柳田国男が戦前、構想していた「大東亜圏民俗学」に、満州や台湾が入っていながら、中国が抜け落ちていたことを指摘、「一国文化主義」の限界を示した。川村教授は「すべての文化はその内部に異文化をはらんでいて、多文化主義的なものだ」としたうえで、異文化を取り入れたり、理解したりする際の「ずれ」は当たり前のことで、そのずれを楽しもうと提言した。

所用があって残念ながら途中で退席したこともあり、シンポジウムの全体を紹介することはできないが、お互いのものの考え方を理解したうえで、そのずれを楽しむ余裕と寛容さが相互理解を発展させる秘訣という結論を私なりに得た。

それにつけても、相手の気持ちをくみ取ろうとしないのが、小泉首相の靖国参拝であり、石原都知事の「シナ発言」と相通ずるところがある。ふたりの主張がすべて間違っているとは思わないが、ことさらに相手のいやがることをし続けるのが「信念」とは思えない。とくに、小泉首相は北朝鮮問題の解決を第一の問題だと考えるのなら、中国に対して大きな影響力を持つ中国と首脳同士の相互訪問もできないような状況はなくすように努めるべきだろう。

小泉首相の参拝が中国国内の反日あるいは対日保守派を勢いづかせ、それが現政権の行動を縛っている政治力学を見るのも政治家の資質だろう。中曽根首相が1985年8月15日に、首相として初めて「公式参拝」したあと、翌年からは参拝を控えたのは、中国からの抗議というよりも、それが中国内の民主派の力を弱める力学となるという「現実政治」に気づいたからだともいわれる。中国側に「反日愛国教育」を抑えるように働きかけることも必要だろうが、二国間の政治や経済全般にわたる状況をみながら、自分の信念と相談するのが「現実政治家」の資質だろう。

最近、気になるのは、中国による「春暁」の天然ガス開発で、双方の排他的経済水域の境界線をどこにするかという領域紛争が根底にあるだけに、「共同開発」という解決策への手順が難しい。領土や領域問題は、境界線をどこに引くかということで、わかりやすいだけに、双方の国民が激しやすい問題でもある。双方の政治家の対応次第では、お互いに敵対するのも、協力するのも、瞬時だという気がする。

少なくとも今世紀の前半は、中国の経済的な成長が予想される。その中国を相手に日本が敵対することが大きな損失であることは明らかだ。「自分の判断」で、首相として靖国参拝を遠慮することが信念を曲げたとか中国に屈服したとかということにはならないだろう。

前掲のシンポジウムで、王勇教授(浙江大学日本文化研究所)がかつて、恩師の石田一良教授(東北大学)の時代区分に異を唱えたときに、石田教授が「スペースシャトルに乗った自分を想像しなさい。国境が見えますか」といわれたというエピソードを紹介していた。「それでわかったのですが、スペースシャトルから国境線は見えない。つまり、時代区分もそれぞれの見方で違うものだと教えられた」と語った。

そして、王教授は「いま日中間に見える線はたくさんあります。日米のガイドライン、石油開発をめぐる経済水域の境界線、そして国境。しかし、お互いに浸透し融合する文化に国境は見えない」とも語っていた。

このシンポジウムの総合司会を務めた王敏教授(法政大学)は「病気がちな日中関係を健康にする治療薬を見つける必要がある」と述べていたが、政治から文化まで、なすべき緊急の課題はたくさんあると思う。


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